鰹通信

文筆屋ささきかつお のblogです。近況、お知らせ、読書日記など書いてます。

カインは言わなかった

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【読書日記】9/29読了

『カインは言わなかった』芦沢央(文藝春秋

久しぶりのイッキ読み本。

夜も更けたし明日も早いから、半分で止めよう、

いやもう少し、もう少し、と止まらなくなって、

結局最後まで。(今朝、寝不足)

 

狂気的な舞台芸術家の元、彼に操られる若者たち、

主演は開演前に行方不明となり、代役は精神的に

追い詰められる。

周囲の視点で、その真実が徐々に明らかになると

とんでもない出来事が待っているという……。

読み手の予想の、斜め上をいく展開に脱帽でした。

 

縦軸のスピード感、横軸のキャラたちの内面。

そのバランスが素晴らしくて、ハラハラして、

これが寝不足の原因だと思います。

 

面白かったー!

 

雑感

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書かせていただいた本が重版出来となると、

この上ない幸せとなるわけです。

一方でここ最近、「子供が、すごく面白いって」

「夢中になって読んでます(写真付)」という

連絡を頂戴しております。

 

これがまた、この上なく嬉しい。

 

自分がどうして物語を紡ぎ始めたのか、

記憶を辿ると小学校のお楽しみ会の台本であり、

マンガ部で書いていた作品だったりするわけですが、

「面白い」と言ってくれる友がいて、

それが嬉しくてまた書くと、「これも面白い」。

でもってまた書くと「これまた面白い」となって

ループして・・・・・現在に至っているわけです。

 

今は職業作家として物語を紡いでいるわけですが、

根幹の原動力って「面白い」って言ってもらうこと

なんだなと、最近ひしひしと感じています。

 

米国の推理作家でジャック・リッチーという方がいます。

ユーモア溢れる短篇ミステリの名手です。

自分はこの方の、読んでいる時すこぶる面白くて、

読んだあとに、あれ、残ってない、ってなる感覚が

すごく好きです。

 

まだ目指すところは未知の領域ですが、

これからも「面白い」と言ってもらえる物語を作るべく

精進していきたい──という日曜の雑感でした。

 

 

 

 

ライフ

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【読書日記】9/26読了

『ライフ』小野寺文宜(ポプラ社

小野寺さんが描く、社会のメインストリートを

ちょっとだけ外れてしまった若者が好きです。

それは親近感だけでなく、彼の存在を肯定する

筆致や周囲の人たちの善意が垣間見えるから。

江戸川区平井のアパートに住む井川君と

ご近所さんとの「めぞん一刻」的なお話は

妙な安定感をもっているんですが、この安定感って

おそらく主人公がフワフワしてるようで

芯はブレてない所からきてるんじゃないかと。

ど派手な展開はない、強烈キャラがいるでもない、

でも読んでいて気持ちのいい作品でした。

山本幸久さんの作品や、横道世之介が好きな人なら

ハマると思います。秋の夜長に楽しい読書でした。

 

 

落花狼藉

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【読書日記】9/26読了

『落花狼藉』朝井まかて双葉社

個人的にですが、今年のNo.1(現時点で)。

遊郭・吉原を題材にした話は落語、歌舞伎や、

あまたの時代・歴史小説にも出て来ます。

引き込まれたのは、華やかな世界観だけでなく、

江戸の初期、駿府から今の日本橋人形町あたりに

築かれた旧吉原から始まる話であり、苦悶し

奮闘する女将の生き様、そして江戸の裏風俗が

ちら、ちら、と見えてくるところ。
もちろんフィクションではありますが、かなりの

時代考証をされたと思われる緻密な描写と

泥臭いほどに抉った人物の心情描写ってば、

そこいらの時代小説が霞んでしまいます。

うん、これは傑作だなと思い、多くの人と

この本の素晴らしさを共有したいでありんす。

 

 

 

 

また明日

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【読書日記】9/21読了

『また明日』群ようこ幻冬舎

群さんが描く、飄々としてホンワカとして、

でも人生の芯をついている筆致が好きです。

人を見据えておられるのだなあ、と。

本書は昭和〜平成を生き、再会した五人の

クラスメイトの、それぞれの物語です。

時間の縦軸と、友だちという横軸。

平凡のようで、それぞれにドラマがあって、

もがいて、受け入れて、流されて、今がある。

読み手のあるあるを突きながら、

読み込ませるのは群さんだから。

 

個人的には第四話の、

大工の次男で楽して生きようとするカツオが

どツボでした。だってこれ、俺だもん。(笑)

 

 

 

 

 

 

蓮二のレンズ 演芸写真家・橘 蓮二が切り取る世界

【読書日記】9/13読了

『蓮二のレンズ〜演芸写真家・橘 蓮二が切り取る世界』

 Pen+(CCC メディアハウス)

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写真グラビアのMOOK本を紹介するのは珍しいのですが、

これは別格だと思います。

写真家・橘蓮二さんがカメラに収めた芸人さんたちは、

その瞬間の息づかい、緊張と緩和、矜持と道化 etc……が

ギュ〜〜〜っと詰まっていて、一枚一枚に引き込まれる。

これらはすべて、橘さんじゃないと撮れない写真。

長いこと寄席に通い詰め、噺家さんと信頼関係を深め、

その姿を追い続けたからこその、この一枚なんだと。

たとえば、P21の立川談志さんのおどけたポーズ。

たとえば、P39の春風亭昇太さんの楽屋での一枚。

鳥肌が立つくらいに、その人、その気持ち、被写体への

まなざしが伝わってくるではないですか。

永久保存版として、大事に、大事にとっておきたい一冊。

 

PS1

もう一冊入手し、ご朱印帳として登場した方々に

サインをいただく──というのも楽しいかも。

 

PS2

私事、橘さんと30年近く親しくさせていただいており、

いつか著者近影を撮っていただくのが夢です。

 

地先

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【読書日記】9/5読了

『地先』乙川優三郎徳間書店

滋味……という言葉が読了後に浮かびました。

乙川先生の作品は味わい深いものが多いのですが、

本作も期待通り「ああ、小説ってイイなあ」と。

これといって波乱の展開があるでもない。

登場人物は、どこにでもいる市井の人々である。

なのに描き出される彼、彼女の今を生きる姿は

等身大の読者にタブらせる優しい視線がある。

ほんと、どこにでもいる感じの主人公たちなんです。

でも、でも読み込んでしまうんです。

これはやはり筆力なのかなあ……と一人で分析。

秋の夜長には染みますよ。これは。