鰹通信

文筆屋ささきかつお のblogです。近況、お知らせ、読書日記など書いてます。

虹にすわる

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【読書日記】8/14読了

『虹にすわる』瀧羽麻子幻冬舎

これはいい本だなあ、と読了後にしみじみ思う。

とりたてて大きな事件が起こるでもない。

スーパーヒーローが登場するでもない。

けれど、登場人物の背景、エピソードの丁寧さが

とても心地よくて、すう、と身に入ってくるのだ。

ざっくり内容を説明すると、

田舎で椅子作りの工房を立ち上げた、二人の若者、

職人肌の主人公と、芸術肌の後輩の凸凹コンビ話。

それだけでドラマは生まれるのだけど、

相手を思う気持ち、わかっていない自分の気持ち、

それに周囲が関わるようになる化学反応。

何気ない言葉のやりとりに、思いが伝わる瞬間があり、

飄々とした展開にもスッ、と心を持っていかれる。

物語は端緒にすぎないので、続編を読みたいです。

楽しかったです。ありがとうございました。

 

 

 

化物蠟燭

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【読書日記】8/8読了

『化物蠟燭』木内昇朝日新聞出版)

ざっくりいうと、江戸市井の「あやかし」もの。

でも木内さんにかかれば、上質な江戸の粋が見える。

あまたある時代モノとは明らかに一線を画してる。

それは練られた言葉遣いだったり、

ちょっとしたキャラたちの仕草に出ていて、

そのクオリティの高さに陶酔してしまうのだ。

短篇が散りばめられているのだけれど、

中味は高質で、濃密な物語が詰め込まれていて、

「虎屋の羊羹詰め合わせ」みたいな感じ。

で、内容なんですが、

総じていえるのは、一番怖いのは人間だってコト。

 

最近、アタリの本が多くて嬉P。

 

 

 

 

 

いるいないみらい

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【読書日記】8/6読了

『いるいないみらい』窪美澄角川書店

市井の人々の、鬱屈として、如何ともしがたい日常を

描かせたら、窪美澄さんの右に出る人はいないと思う。

どこにでもいる、当たり前でありながら、

でもそれが本人たちにとっては、堪らない現実……。

あるあるネタとして読んでもいいけれど、彼・彼女に

付き添っているような筆致には“人間の芯”が見える。

いる、いない、みらい──とは、

様々な人に現れる(or 現れた)新しい生命のことで、

誰しも既視感を覚える短篇が並ぶ。

各章の彼・彼女たちは、その存在に逡巡し、葛藤し、

見えない答を導きだそうとして、もがいているのだ。

どれも短い話ばかりだけれど、この濃密さは

長篇ばりの重さがあって、これも窪さんのスゴサだなと。

いい本に出会えました。感謝。

 

 

 

図書室

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【読書日記】8/5読了

『図書室』岸政彦(新潮社)

同世代の作家さんなんですが、大学の先生でも

あられます。現代民俗学的な本も結構好きです。

本書は中編と、自伝エッセイが入ってまして、

小説は中年女性が振り返る大阪での暮らし、

エッセイは、これまた著者の若い頃の大阪話。

どちらも、ちょっとドロくさい、大阪の匂いが

いい感じに伝わってくる逸品でした。

自分も20年以上前に大阪に住んでいたので、

あの頃の大阪がフッと浮かんできたりして

ノスタルジー、ノスタルジー

マルチな著者さまの次回作にも期待したいです。

 

ザ・ベストミステリーズ 2019

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【読書日記】8/4読了

『ザ・ベストミステリーズ 2019』(講談社

推理作家協会編の、この一年に発表された短篇から、

選ばれたナイスな短篇ミステリーを収めた本。

毎年、楽しみにしている一冊です。

今回の個人的ヒットは

宇佐美まことさん「クレイジーキルト」

佐藤究さん「くぎ」

曽根圭介さん「母の務め」 以上3作でした。

キレキレの短篇でオオッと唸ってしまう作品ばかり。

とても勉強になりました。

 

 

 

平場の月

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【読書日記】7/30読了

『平場の月』朝倉かすみ(光文社)

うん、傑作だと思いました。

人生が見えて来た50近い男女、中学同級生が再会し、

静かな大人の恋が描かれている……だけではなくって、

これって恋愛小説のククリではなく、

諦観と、それにもがく人間の生々しさが丁寧に

描かれていると感じました。

出会いと別れを繰り返した男女が、お互いのことを想い、

それゆえに、お互いの距離感に躊躇しながら、

それでもやっぱり生きていこうとする、のだけど……。

何だろう、終始静かなトーンの中に、胸中にうごめく

とてつもない感情の揺れといったものが、

同年代の読み手(=私ね)に、ジンジン響いてくる。

ドラマティックな展開がなくったって、

人の心を打つ小説っていうのが、まさにこれなんですね。

人に薦めたい1冊です。

 

 

 

 

緋の河

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【読書日記】7/24読了

『緋の河』桜木紫乃(新潮社)

こんな、魂を鷲掴みにされる本に出会えることは

年に数回しかないので、とても幸せでした。

直木賞作家が紡ぐ長編は、著者の故郷のパイセン、

ルーセル真紀が主人公のモデル。

今でこそやっと普遍化してきたLGBT

その萌芽が幼いころから香っていた少年が、

戦後、住む町や学校、家族の白眼視を受けながら

それでも「アタシはアタシ」と前を向いて生きていく。

その力強さにグッ、とくる。

濃密な人物描写、出会った人々の言葉、

故郷・釧路の匂い──

どれをとっても小説として一級品だと思います。

これは間違いなく今年のベスト本(個人的)に入るな。

ぜひともオススメしたい一冊です。