鰹通信

文筆屋ささきかつお のblogです。近況、お知らせ、読書日記など書いてます。

不定期連載

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第二話 「上あごに最中の皮」

風の中で信玄餅を食べる程の苦難を乗り切った国、

アルラカスの王女、ビルマリーは、

敵対する隣国の王子、アントニアルスに恋していた。

「ああ、愛しのアントニアルスさま、この想いを

 貴方さまに、どう告げればよいのかしら」

もどかしい想いをこじらせたまま、王女はある日、

吟遊詩人のフラフニーを王宮へ呼び寄せる。

「吟遊詩人よ、私の想いを詩にして、王子に届けるのです」

「お任せを」

恭しく頭を垂れた吟遊詩人はややあって、

一編の詩を、王女の前で朗々と語り出す。

「ああ、王子。私のこの想い、

 上あごに最中の皮がへばりつたようです」

「……よろしい」

王女の想いが届いたか否かは、誰も知らない。

 

 

 

 

国宝

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【読書日記】10/1読了

『国宝』上下巻 吉田修一朝日新聞出版)

いやもう、エライものを読んでしまったな、と。

デビュー時から吉田さんの著作はすべて読んでいるのですが、

これもまちがいなく、傑作でしょう。

上巻は夜更かしして、下巻は読了後、興奮で寝つけなかった。

頃は昭和の中ごろ、任侠の出の主人公が梨園に入り、

師匠の息子らと愛憎を繰り返し、人間国宝になっていく……

ある女形の一代記なんですが、歌舞伎の演目を通しての、

その生き様ってのが、どうにもこうにも業&粋でありまして、

ため息が出るほどに巧い。美味い。

半世紀以上の時間をエッジの効いた緩急の付け方で飽かせず、

巧みなお国言葉でありありと場面を映し出す。見事です。

地の文が、新しい「語り」の手法なんですが、

個人的には古今亭志ん朝師匠の声が聞こえてきました。

 

これ読んだあと、しばらくは、どの小説もくすんじゃうな。

 

 

紫陽花舎随筆

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【読書日記】9/28読了

『紫陽花舎随筆』鏑木清方講談社文芸文庫

何故にこの本を手に取ったのか、読了した今でも

それが不明なのですが、ああ、読んでよかったと。

明治、大正、昭和をまたぐ著名な画家さんですが、

絵だけでなく、文章も抜群に巧い!

画家として見た描写がそのまま筆にのるのかなと。

読むと、父親も江戸からの物書きで毎日新聞

創設者の一人と知り、さもありなんと、頷く。

時代は違え、絵も、文も、達者な人はいるわけで、

鏑木さんはさしずめ、この時代のリリーさんかな。

内容で面白かったのはね、時代が続いていること、

天保生まれの祖母は山東京伝とも縁があって、

その祖母の曾祖父が、赤穂浪士討ち入りの太鼓の音を

聞いていた……って、聞き伝えの距離ったらもう。

流麗な文章、未知の漢字にワクワクしてました。

これ、また読もう。

 

 

 

 

 

ひと

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【読書日記】9/12読了

『ひと』小野寺史宜(祥伝社

心の底がジンと暖かくなる本。出逢えてよかった。

恥ずかしながら、小野寺さんはノーマークでした。

とりたてて大仰なストーリーがあるわけでもない、

とてつもないキャラいるわけでもない、

いたって普通の、今を生きる「ひと」がいる。

親を相次いで亡くし、大学を中退して底にいる若者が

ふとした出会いで前を向き、先を考えていく。

それだけの話なのに、何故だろう、涙が出るくらいに

行間から感情がこぼれ落ちてくるのが読んでいてわかる。

この感覚、吉田修一の初期作品、柴崎友香作品が

好きな人ならわかってくれる(と信じたい)はず。

それと主人公視点の、デティールに凝った描写も好き。

南砂町から大手町まで行かず、手前の日本橋で降りた方が

東西線の運賃が少し安くなるとか。

ちゃんと見て、感じて、丁寧に描いている、そんな作品。

久しぶりに人にオススメしたい一冊です。

 

 

 

 

青少年のための小説入門

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【読書日記】9/5読了

『青少年のための読書入門』久保寺健彦集英社

著者デビュー時「わあ、すごい作家さん出て来た!」と

驚いていたのを覚えています。(→参照

その後しばらく拝読していなかったのですが、

こんな面白い作品を書かれていたのですね。脱帽です。

冴えない中棒と、ディスクレシア半グレヤンキーが出会い、

共作で作家となっていく物語。

熱い、キャラが濃い、メタが深い、回想のカタルシス

スタンドバイミーとか、ニューシネパラとか彷彿で切ない!

ああ、やっぱこの作家さん、いいわあ! と読了。

ラストの1行で、思わず唸っちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

ポノック短編劇場 ちいさな英雄

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昨日、嫁さんと二人で日比谷の映画館に観に行きました。

いやあ、面白かったですよ。

カニ兄妹の冒険譚を描く、風景描写(特に水中)の映像美。

食物アレルギーを抱える男の子と母親の心情。

そして「存在とは?」を問いかける透明人間の不条理劇。

短編集だから出来る、ギュ〜っと圧縮された三作品の魅力は

それぞれ異なっており、一言で紹介できないのがもどかしい。

「カメ止め」もイイんですけど、創作に関わる友人たちには、

是非この映画を観て欲しいと、切に思うのでありまする。

 

みんな、観に行って! 面白いから!

 

 

 

 

 

 

朝鮮大学校物語

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【読書日記】8/29読了

朝鮮大学校物語』ヤン ヨンヒ(角川書店

数年前、

飯田橋ギンレイホールで「かぞくのくに」という映画を観た。

在日家族の、ヒリヒリとした葛藤や感情に心が揺さぶられた。

その映画監督が著者であると知ったのは、本を手にしてから。

1980年代、私事、当時高校生で、隣町にこの学校があるのは

知っていたけれど、それ以上の知識はなかった。

30年の時を経て、自叙伝的ストーリーで塀の中の「異国」が

まざまざと、あざやかに浮かび上がってくる。

アイデンティティ、母国思想への反発、恋、夢……。

ギューっと詰まった青春物語に、ガッと心が鷲掴みされる。

これは、いい本だなあ。出逢えたことに感謝したいです。

地味なんだけど、実は装丁もかなりいい味出してます。