鰹通信

文筆屋ささきかつお のblogです。近況、お知らせ、読書日記など書いてます。

沈黙のパレード

f:id:maehara63:20181112112248j:plain

【読書日記】11/10読了

『沈黙のパレード』東野圭吾文藝春秋

ひさびさのガリレオシリーズ、やはり傑作!

この魅力って何かなあって個人的に考えるに、

被害者を思う人々の忸怩たる思いが通底し、

それが犯罪に繋がっていくという設定と、

見事な科学的トリック、で、解き明かす湯川氏。

殺人がストーリーの道具ではなく、きちんと

当事者たちの心の奥底にまで降りているコトが

やはり東野作品が、あまたあるミステリとは

違っているんじゃないかなって思うんです。

終盤の「どんでん返し × N」は、各所で

きちんと伏線が張られてあるし、文句なしです。

 

「本は高い」って言われるけれど、

秋の夜長、二晩(計8時間)かけて、こんな名著に

映画1本と同料金で浸れるんですから、

お得だと思うんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

不定期連載

f:id:maehara63:20180626090826j:plain

第五話「現(うつつ)の国」


夢の国の入場制限を知らず、舞浜駅を降りて
呆然としている私に、その老人は声をかけてきた。


「夢の国も結構なものだが、現(うつつ)も一興」
「何のことです?」
「ついて来なさい、もう一つのテーマパークだ」


時間を持てあましていた。
私は老人のあとについて、舞浜駅の、夢の国とは
反対側の住宅街に入っていく。


果たして、辿り着いたプレハブ小屋には段ボールで
こう書かれてあった──「東京リアルランド」。
「リアル?」
「そう、リアル。夢の国とは真逆の、現(うつつ)の国だ。
 お代は見てからでよろしい」


プレハブ小屋の内部は、いくつかの部屋に区切られ、
どうやら一つ一つを見て回る趣向である。


「では最初のリアルをご覧いただこう」
案内され部屋に入ると、狸が一匹、寝ている。
「これは?」
「狸寝入りをしている、狸だ。リアルだろう」
「うむ」


戸惑いを隠せないでいると「では次なるリアルに」と
老人は私を隣室へといざなう。
そこには床に倒れ、息も絶え絶えな馬がいた。
「これなるは、馬車馬のように働かされた、馬」
「なるほど、これはリアル」


私のうなずきに、老人は相好を崩す。「では次」
案内された部屋には、中央にテーブル、その上に
檸檬が一つ、梶井基次郎の小説のごとく置かれてある。
手前には解説文。
檸檬1個分のビタミンCが入っています》
「うむ……」「リアルじゃろ、どうじゃ」
いちいち私の反応を窺っている様子がウザイのだが、
まあ、確かにリアルと言えばリアルであった。


だが、次なる「体験コーナー」では
《苦虫を噛み潰した顔をしてみよう。リアルに》とあり、
見たコトのない黒い虫が、箱の中を這い回っている。
私は「ひゃあああ」と叫び声をあげてしまう。


「と、いうワケで、夢の国の反対側には、ご覧のとおり、
 東京リアルランドなる、現(うつつ)の国がある」
「いえ、リアルではありませんな」と、私は反駁する。
「な、なんとおっしゃる!?」
困惑の表情を隠せないでいる老人に、私は答える。


「ここは千葉県浦安市です。東京ではありませんよ」
「な、何と……それがリアルでないと」
言葉が出ないでいる老人を置いたまま、
私はプレハブ小屋をあとにしたのだった。


何だ、この話は?

 

辺境の路地へ

f:id:maehara63:20181105104424j:plain

【読書日記】11/4読了

『辺境の路地へ』上原善広河出書房新社

「路地」をテーマにしたノンフィクションを数多く

手がけてこられた著者の、私小説風の回顧録

全国の(言葉は悪いけど)場末なところへ赴き、

無頼であり、鬱屈とした内情を吐露しながら、

出会った人との会話をポツ、ポツ、と描いていく。

一見、瑣末なエピソードなのだけれど、

著者のナイーブな筆致で語られると、どうだろう、

じわじわと心の襞にそれが染み込んでくるのだ。

この世界観が、どういうワケか引き込まれます。

秋の夜長の読書、一気読みでした。

 

 

日本語の作法

f:id:maehara63:20181103192422j:plain

【読書日記】11/2読了

『日本語の作法』中村明(青土社

物書きのハシクレとして、正しく、美しい文章を

書きたいと常日頃から思って精進しております。

そんな折に出会ったのが、この一冊でして。

滋味深い解説、昨今の名作の引用と、読ませます。

でも著者、中村先生の薫陶は、序章&終章にある

この一節に尽きます。曰く

「書き手自身に対する誠実さと、読み手に対する

 思いやり、その二点に尽きるだろう」

ワタシ、目からウロコがポロポロと落ちました。

 

 

 

 

 

 

不定期連載

f:id:maehara63:20180626090826j:plain

第四話「翔」

 

営業車で都内某所を回っていた時のことである。

その日も納品が数カ所あったのだが、いつになく渋滞で
得意先への到着が遅れ、いかばか焦っていた。

 

 

こんな時に限って、いつも駐車しているコインパーキングは
「満」の表示になっている。

イライラしながらタバコをくわえ、カーナビに出ている
ほかのパーキングを探し、周辺をグルグル回ったのだ。

 

 

だが、いずれも「満」「満」「満」「満」の表示。

いったい今日はどうなっているのだと、己の不運を嘆く。
そうは言っても時間は経つばかりであるから、
得意先へは「車が混んで……」と遅刻の詫びを電話して、
引き続きコインパーキングを探す。

すると、カーナビには出ていない「P」の看板を発見。

よし! 「満」ではない。ん……あれ? この表示って?

 

 

「翔」

これは、どういうことだろう。
だが「満」ではない。表示板に不具合でもあったのだろうと
自分勝手に解釈をして、ウインカーを下ろし、ハンドルを左へ切る。

黒黄縞の遮断バーの前、ほかと変わらぬ自動発券機がある。
問題ない、とボタンを押した。

 

 

「いらっしゃいませ」と自動アナウンス。
ん、このヘリウムガスを吸ったような、高い声って……。

遮断バーが上がってパーキング内に入ると、
危惧していた事態が、目の前で起こっていた。
場内に大型のワゴンカーが一台だけ停まっていたのだ。

スモークガラスで遮断された車内から現れた、
リーゼント&サングラスの男。

 

 

「なんだ、お前。オモテの表示が見えなかったのかよ」
「は?」
「翔って、書いてあっただろ。翔って」

 先客は、哀川翔だった。

「え……あの、翔って」
「だからさあ、あの翔って表示は、オレ専用ってコトだよ」
「はあ」
「入っちゃったんだから仕方ねえけど、次は気をつけろよ」
「すみません」
「オレだから、スミマセンで済むんだぜ。もしさあ、表示が
 “力”とかだったら絶対に入るんじゃねーぞ」
「“力”って、竹内……」
「そーだよ」

 

 

そう言って、哀川のアニキはパーキングから去っていった。

私が配送を終えて車に戻った時にはアニキの車はなく、
表示も「空」に変わっていたのだった。

 

 

それが数カ月前の話である。
以来、「翔」と表示されたパーキングに出くわしたことはない。

だが今、私は新しく発見したパーキングに、この表示を見つけた。

 

 

「優」

これは、どういうことだろう。
もしかして、蒼井優がこの中に……。

私は迷わずウインカーを下ろし、ハンドルを左へ切る。

いや、待てよ。
優と言っても、山田優かも知れないし。早見優ってこともある。

ええい、ままよ!
そう言って私はパーキングに突入するのである。

 


夏色のナンシー」を口ずさみながら。

 

 

不定期連載

f:id:maehara63:20180626090826j:plain

第三話「古文書 ほととぎす」

我がW大学日本史研究室(虎山牛太郎教授)一行は、
江戸時代中期からある竹山家土蔵の調査を行った。

 

 そこで我々は、面白い古文書を発見したのである。
『不如帰考』と銘打たれた和綴じの冊子を開くと、
あの有名な「ほととぎす」の歌が……。

 

 

鳴かぬなら 殺してしまえ ほととぎす
織田信長

 

 

鳴かぬなら 鳴かせてみせよう ほととぎす
豊臣秀吉

 

 

鳴かぬなら 鳴くまで待とう ほととぎす
徳川家康

 

 

小学生でも知っているだろう、
この国を制した三人を表現した歌である。

 

 

しかし、めくっていくごとに驚くべき歌が目に入ったのだ。

 

 

鳴かぬなら 私が泣いちゃう ほととぎす
清少納言

 

 

えっ、平安時代からこの歌は存在していたのか……。さらに、

 

 

鳴かぬなら 私は泣かない ほととぎす
紫式部

 

 

おー、清少納言への対抗心むき出しだ。
伝承とはいえ、新たな史料の出現に我々研究班は色めく。
さらにページをめくるのである。

 

 

鳴かぬなら 太平洋ぜよ ほととぎす
坂本龍馬

 

 

鳴かぬなら 桜島でごわす ほととぎす
西郷隆盛

 

 

幕末の志士たちも?
我々は戸惑いながらも、さらにページをめくる。

 

 

鳴かぬなら 雨ニモ負ケズ ほととぎす
宮沢賢治

 

 

鳴かぬなら 人間だもの ほととぎす
相田みつを

 

 

鳴かぬなら Let's sing together ほととぎす!
ルー大柴

 

 

「…………」

 

 

私たちは静かに古文書を閉じ、竹山家土蔵を後にしたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

歪んだ波紋

f:id:maehara63:20181016073302j:plain

【読書日記】10/15読了

『歪んだ波紋』塩田武士(講談社

その人にしか書けない小説というものがあって、

それがおそらく本書だと思うのです。

テーマは所謂フェイクニュース誤報ですね。

地方紙、全国紙、ネットニュース……と

様々な角度から、誤報に翻弄される人々の葛藤を

描いた連作短編で、どれも中くらいなエピソードが

並んで、ああ、こういう作品なのね……と思いきや、

   と ん で も な か っ た 。

天地がひっくり返りそうな展開に愕然とする。

これはもう、事実に近いんだなと思うと身震いした。

なにはともあれ、マスコミに籍のある人だったら、

是非とも読んでほしい、そう思った一冊でした。

これ、直木賞いくんじゃないかな(私感)。