鰹通信

文筆屋ささきかつお のblogです。近況、お知らせ、読書日記など書いてます。

五十音ばなし「い」

「いぬ」

 

「先走りました」
と私の前でうなだれていたのは
犬だった。

「一年、早く来てしまったのです」
その言葉に私は気がつく。
干支の犬、つまり戌(いぬ)だったのだ。

「誰にだって失敗はある。
 一年早く来ても誰も迷惑とは思わない」

なぐさめても表情は虚ろである。
「一度出てしまった以上、
 恥ずかしくて戻ることはできないのです。
 申(さる)にウキキと笑われるだろうし、
 辰(たつ)は火を噴いて怒るだろうし」

「まあまあ、そう落ち込まないで、ほら」
と言って、私は彼の後ろで息を荒くしている
存在を指さす。「フライングは君だけでない」
「あっ、いのし……」
気がついた戌は、成程といった顔をする。

「さすがは猪突猛進、やつは再来年ですね」
そこには鼻息荒い亥(い)がいたのだ。