鰹通信

文筆屋ささきかつお のblogです。近況、お知らせ、読書日記など書いてます。

不定期連載

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第五話「現(うつつ)の国」


夢の国の入場制限を知らず、舞浜駅を降りて
呆然としている私に、その老人は声をかけてきた。


「夢の国も結構なものだが、現(うつつ)も一興」
「何のことです?」
「ついて来なさい、もう一つのテーマパークだ」


時間を持てあましていた。
私は老人のあとについて、舞浜駅の、夢の国とは
反対側の住宅街に入っていく。


果たして、辿り着いたプレハブ小屋には段ボールで
こう書かれてあった──「東京リアルランド」。
「リアル?」
「そう、リアル。夢の国とは真逆の、現(うつつ)の国だ。
 お代は見てからでよろしい」


プレハブ小屋の内部は、いくつかの部屋に区切られ、
どうやら一つ一つを見て回る趣向である。


「では最初のリアルをご覧いただこう」
案内され部屋に入ると、狸が一匹、寝ている。
「これは?」
「狸寝入りをしている、狸だ。リアルだろう」
「うむ」


戸惑いを隠せないでいると「では次なるリアルに」と
老人は私を隣室へといざなう。
そこには床に倒れ、息も絶え絶えな馬がいた。
「これなるは、馬車馬のように働かされた、馬」
「なるほど、これはリアル」


私のうなずきに、老人は相好を崩す。「では次」
案内された部屋には、中央にテーブル、その上に
檸檬が一つ、梶井基次郎の小説のごとく置かれてある。
手前には解説文。
檸檬1個分のビタミンCが入っています》
「うむ……」「リアルじゃろ、どうじゃ」
いちいち私の反応を窺っている様子がウザイのだが、
まあ、確かにリアルと言えばリアルであった。


だが、次なる「体験コーナー」では
《苦虫を噛み潰した顔をしてみよう。リアルに》とあり、
見たコトのない黒い虫が、箱の中を這い回っている。
私は「ひゃあああ」と叫び声をあげてしまう。


「と、いうワケで、夢の国の反対側には、ご覧のとおり、
 東京リアルランドなる、現(うつつ)の国がある」
「いえ、リアルではありませんな」と、私は反駁する。
「な、なんとおっしゃる!?」
困惑の表情を隠せないでいる老人に、私は答える。


「ここは千葉県浦安市です。東京ではありませんよ」
「な、何と……それがリアルでないと」
言葉が出ないでいる老人を置いたまま、
私はプレハブ小屋をあとにしたのだった。


何だ、この話は?